8月17日に発表された4〜6月期のGDP速報値は、実質年率換算で1.1%増。3四半期連続のプラス成長ではあるものの、市場が見込んでいた2%前後の伸びには届きませんでした。名目GDPは687.7兆円と過去最高を更新し、見出しだけを追えば「日本経済は着実に回復している」という印象を受けます。ただ、中身を覗いてみると、素直に喜べる数字ばかりではありません。

内需の寄与度は3四半期ぶりにマイナスへ転じ、個人消費は前期比0.02%減と、実に8四半期ぶりの落ち込みです。設備投資も2四半期連続でマイナス。成長を支えたのは、もっぱら外需でした。今回のプラス成長は、内側からの力強さというより、外からの追い風でなんとか形を保った、という表現の方が実態に近いように思います。

「落ち着き」を演出する3つの装置

今回のGDP統計でもうひとつ目を引くのが、物価の伸びの鈍化です。GDPデフレーターは前年同期比2.6%上昇と、1〜3月期の3.2%から縮小しました。一見すると「インフレが落ち着いてきた」という良い知らせに見えますが、この数字の裏側には、少なくとも3つの「かさ上げ装置」が働いていることを押さえておく必要があります。

ひとつ目は補助金です。ガソリン補助金は8月時点で1リットルあたり19.0円まで縮小され、9月には基準価格の見直しも取り沙汰されています。電気・ガス代への補助と合わせ、家計が実際に支払うエネルギー価格を政策的に抑え込んでいる構図です。ふたつ目は、石油の国家備蓄放出。中東情勢の緊迫を受けた需給不安を和らげるために取り崩されているもので、ガソリン補助金との「合わせ技」で価格を安定させています。ただし備蓄は有限であり、いずれ底が見えてきます。そして3つ目が、企業物価の価格転嫁の遅れです。帝国データバンクの調査によれば、企業のコスト上昇分のうち実際に販売価格へ転嫁できているのは42.1%にとどまり、残る6割近くは企業が自ら飲み込んでいます。飲食や宿泊、医療などの分野ではその割合はさらに低く、体力の乏しい中小企業ほど重い負担を背負っているのが実情です。設備投資が2四半期連続でマイナスに沈んでいる背景には、この転嫁の遅れによる収益圧迫も無縁ではないでしょう。

つまり今の「物価の落ち着き」や「プラス成長」は、需要が本当に冷えて均衡したというより、財政と企業努力によって時間を買っている状態に近い。補助金の予算にも、備蓄にも、企業の我慢にも、それぞれ限りがあります。どこかでこの下支えが外れたとき、抑え込まれていた価格圧力がまとめて表に出てくるリスクは、頭の片隅に置いておいて損はありません。

静かな夏の先にあるもの

前回の話にも通じますが、今はちょうど「夏枯れ相場」の真っ只中です。出来高が細り、値動きも比較的穏やかなこの時期は、見た目には平和に映ります。しかしこの凪は、参加者が少ないだけの一時的な静けさに過ぎません。9月に入れば、統計的に一年で最も弱い月とされる「9月効果」、そして先物・オプションの満期が重なり値動きが荒くなりやすい9月18日の「トリプルウィッチング」が控えています。日本では秋のお彼岸にかけて相場が底を打ちやすいという「彼岸底」の経験則もあり、10月末のハロウィンを過ぎるまでは、季節性のうえでも波乱含みの時期が続きます。

今回のGDPが映し出した「見かけの安定」と、市場の「見かけの静けさ」は、実はよく似た構造を抱えています。どちらも、表面をならしている力が働いているだけで、その下では調整圧力が静かに蓄積している。米国の関税動向や為替の振れ、政治情勢の不透明感といった外部要因も加われば、秋にかけて相場も経済指標も、案外あっさり表情を変える可能性があります。

とはいえ、いたずらに身構える必要はありません。個人消費の落ち込みにはタバコ増税など一時的な要因も含まれていますし、実質雇用者報酬は前年比2.2%増と拡大を続けています。外需も3四半期連続でプラスに寄与しており、経済の土台がにわかに崩れているわけではないのです。「備えあれば憂いなし」という言葉の通り、大切なのは悲観することではなく、静かなうちに備えを済ませておくことです。ポートフォリオの偏りを点検する、過度なレバレッジを避ける、現金や流動性にも一定の余地を残しておく——こうした地味な作業は、相場が荒れ始めてから慌てて行うものではなく、凪のうちにこそ済ませておくものです。

8割は集中して備え、2割は力を抜いて構える。今の落ち着きに安心しきるのでも、先行きを恐れて縮こまるのでもなく、そのくらいの距離感で秋を迎えるのが、結局のところいちばん「楽に」過ごせる道だと思います。


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