ウォルマートの四半期決算は1株利益・売上高ともに前年比増が見込まれるが、同時期に米小売売上高が前月比マイナスを記録しており、好調の背景には消費全体の回復ではなく、節約志向の消費者の集中がある。食料品やジェネリック医薬品などの必需品が牽引する一方、衣料や家電は低調だ。
高所得層が旅行・高級品に支出を向ける一方、物価上昇に圧迫された低所得層は必需品の安値を求めてウォルマートに集まるという「K字型経済」の構図が鮮明になっている。同社の好決算は経済の健全さではなく、生活防衛のために安さに頼らざるを得ない人々の増加を示すシグナルである可能性がある。
8月20日(木)、市場が開く前にウォルマートの四半期決算が発表される。市場予想は1株利益0.73ドルで前年比9%増、売上高は1760億ドルで4%増。株価はすでに年初来13%上昇し、52週高値まであと一歩のところまで来ている。数字だけ拾えば「アメリカの消費はまだまだ元気」という見出しが立ちそうな内容だ。
だが、同じタイミングで発表された7月の米小売売上高は前月比マイナス0.6%。世の中全体の買い物は減っているのに、ウォルマートだけがなぜか調子がいい。この噛み合わなさこそ、今回の決算を読むうえでいちばん面白いところだと思う。
答えは単純で、消費者が「安いところに逃げている」からだ。株高や高い預金金利の恩恵を受ける高所得層は旅行や高級品にお金を回す一方、物価上昇(インフレ)に生活を圧迫される低所得層は、必需品を買うだけで精一杯になっている。所得の伸びも支出の中身も、上と下でまったく違う方向に分かれていく――これをアルファベットの形になぞらえて「K字型経済」と呼ぶ。ミシガン大学が毎月まとめる消費者信頼感指数を見ても、家計が苦しくなった理由として「所得が減った」より「物価が上がった」を挙げる人のほうが圧倒的に多い。給料が減っているわけではないのに、財布のひもは固くなる一方というわけだ。
そしてウォルマートは、この分断の受け皿になっている。決算で強いのは食料品やジェネリック医薬品といった必需品カテゴリーで、衣料や家電などの一般商品はむしろ鈍い。つまり「みんなが元気に買い物している」のではなく、「節約したい人がこぞってウォルマートに集まっている」から数字が伸びている可能性が高い。
これは今回に限った話ではない。2008年のリーマンショック後も、多くの小売業が青ざめるなかでウォルマートの既存店売上高はむしろ伸びた。高所得層まで含めて節約志向が広がり、ブランド品や外食から「とにかく安いもの」へと客が流れ込んだからだ。創業者サム・ウォルトンは生前、「ボスはたった一人、顧客だけだ。顧客は会社の誰であろうと、よそでお金を使うだけでクビにできる」と語っていたという。徹底した安売り哲学を貫いてきたことが、不況のたびに皮肉にも追い風になる――ウォルマートという会社の構造そのものが、景気の体温計としての役割を持っている。
ここで私が思うのは、「ウォルマート好調」というニュースを額面通り喜んでいいのか、ということだ。もちろん一企業の経営努力として称賛されるべき数字ではある。関税(貿易相手国からの輸入品にかける税金)で仕入れコストが上がるなか、食料品など主要カテゴリーの値上げを最小限に抑えつつ利益を確保しようとしているのは、簡単なことではない。8月20日の決算では、経営陣がこのコスト増をどこまで価格に転嫁できているか、その一言一句が注目されるはずだ。転嫁がうまくいけば他の小売業にとっても前例になるし、うまくいかなければ「値上げ疲れ」の広がりを示すことになる。
ただ、企業としての強さと、社会全体の健全さは別の話だ。ウォルマートの好決算を「アメリカ経済は大丈夫」の証拠として受け取ってしまうと、足元で静かに進んでいる分断を見落とすことになる。むしろ逆で、ウォルマートが儲かれば儲かるほど、「安さに頼らざるを得ない人」が増えているというシグナルかもしれない。景気指標としてはポジティブに見えて、生活実感としてはネガティブ――そんなねじれを抱えたまま、この決算は発表される。
とはいえ、悲観だけしていても仕方がない。K字の下側にいるかどうかは、今日明日にどうこうできる話ではないけれど、自分の家計がどちら側の力学で動いているかを意識しておくだけでも、次の一手は変わってくる。相場も生活も、8割は淡々と仕組みを理解して備え、残り2割くらいは「まあ、安く賢く買い物できるのも悪くない」くらいの気楽さで構えておきたい。
――安さが売れるほど、静かに軋む音がする。