楽生総合研究所

日本では、「人的資本経営」が重要だと叫ばれる一方で、実際にはその進展が遅々として進んでいないのが現状です。その背景には、経営者や投資家が「評価」という概念を十分に理解し、実践できていないという課題があります。これは単なる企業内の問題ではなく、日本社会全体の競争力を低下させている大きな要因でもあります。

「評価」の歪み：結果主義がもたらした弊害

長年、日本では偏差値教育の影響で「正解を見つける」ことが評価の基準でした。この傾向はビジネスの場でも根強く、企業評価の基準は「売上」や「利益」といった結果に偏重しがちです。この結果主義は、「数字を取り繕う」ことを目的化させ、産地隠蔽やデータ偽造といった不正行為をもたらしました。その一方で、人材育成や組織全体の成長には目が向けられず、競争力を根底から失っていくという負のスパイラルに陥っています。

たとえば、日本のある大手製造業では、短期的な利益を追求するあまり、品質管理が犠牲にされ、結果としてリコール問題に直面しました。一方で、欧米企業は「人的資本」を重視し、従業員のスキル向上と創造性を促すことに投資を続けています。その結果、技術革新と競争優位性を確立してきたのです。

経営者に求められる「評価力」の本質

経営者や投資家が本来果たすべき役割は、次の4つの要素に集約されます：

1. 情報収集力：四方にアンテナを張り巡らせ、多様な情報をキャッチする力。

2. 価値判断力：その情報をもとに、事業や人材の本質的な価値を見極める力。

3. 優先順位設定力：複数の選択肢の中から、最も重要なものを選び抜く力。

4. 説明力：関係者に適切な意思決定を伝え、共感を得る力。

この中でも、日本社会が特に弱いのは「価値判断力」です。多くの経営者が、自社の従業員の能力やポテンシャルを正しく評価することができず、現状維持やコスト削減に固執しています。これが人的資本経営の実践を阻む最大の壁です。

評価の進化が組織を変える

人的資本経営を機能させるためには、小手先のシステム導入や評価ツールの導入では不十分です。経営者自身が価値観をアップデートし、「人材をどう活かすか」という視点を持つことが不可欠です。そのための第一歩は、「数字では見えない価値」に目を向けることです。

たとえば、欧州のあるIT企業では、従業員の貢献度を「創造的なアイデア」「チームへの影響力」といった定性的な観点から評価しています。これにより、組織全体で協働を促し、結果的に収益を向上させる好循環を生み出しています。日本企業も、このような新しい評価基準を積極的に取り入れるべきです。

日本社会の再生に向けて

政府や行政機関においても、人的資本経営の重要性を理解し、適切な評価基準を導入する必要があります。現状、官僚組織では評価の基準が不透明で、自己保身や現状維持に終始しているケースが散見されます。こうした腐敗を防ぐためにも、「人材を正しく評価し、育成する文化」を根付かせることが急務です。

20代のビジネスパーソンには、これからの日本を支える一員として、独自の価値観を磨き上げ、組織を変革する力を身につけてほしいと思います。偏差値や短期的な数字だけに囚われない広い視野と、「人を活かす」経営への理解が、未来の競争優位性を築く鍵となるのです。

私たちの手で、日本の経営をアップデートしよう。人的資本経営の本質を見据え、次世代のリーダーとして輝ける未来を共に作りましょう。